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Tackle Impressions

ローウォーター&SS1712D_H

平野 秀輔(ひらのしゅうすけ) 東京都在住 Shusuke Hirano in Tokyo, Japan.
フライフィッシング歴20年/サーモンフィッシング歴4年 元全日本キャスティングチャンピオン

ハードアクション

 KS SS1712D Limited Hard Action(1712DH)は、あのあまりにも有名なKS SS1712D(1712D)を強化したロッドである。すると多くの方々はこのロッドを手に入れたら、「より遠くへフライを飛ばせる・・」と想像するだろう。それはそれであながち間違いではないと思う。が、個人的には1712DHと1712Dでそれぞれ目一杯投げたとしても、最高飛距離は3mと変わらない。ロッドの長さも同じだし、12番という番手も同じだから当然といえば当然である。

 ではなぜ1712DHを使うのか。それは強化によるループの安定と、ピックアップのし易さ、そしてファイティングの容易さにある。

 このロッドを初めて手にし、最初のシューティングで驚いたのは、ループがプレゼンテーションの直前まで安定し、フライラインのターンの仕方が1712Dより強く感じることだった。ウェットの釣りでは、できることならプレゼンテーションの際にフライを水面に叩き込みたい。そのためには、シューティング後、ラインのループがなるべく最後まで乱れないようにし、テーパーリーダーにその力をできるだけ失速しないように伝え、フライを水面めがけてターンさせる必要がある。1712DHはこれを容易にする。

 ならばハイウォーターはもちろんのこと、神経質にポイントを攻めるローウォーターの釣りにも「体力が許す限り」有効ではないかと考えた。「体力が許す限り」というのは、ガウラにおけるローウォーターの定番ロッドSS1612Dを一旦振ってしまうと、さすがにその後、1712DHの重みがこたえるからだ。




ローウォーターのガウラで、迷わず手に取ったのは1712DH。

フォルスキャスト

 1712DHを使った公園での練習では、飛距離を欲張ることを止め、できるだけ少ないフォルスキャストで、なるべく正確に投げることに重点を置いてきた。おかげで今年のガウラ釣行におけるフォルスキャストの回数は、近距離ではロッドティップからフラットビームを出すために1回だけ、少しの遠投や体制が崩れたときでも大体2回程で済んだ。去年までと比較すると1回のシュートに対して、明らかに1回もしくは2回程少なくなっている。これは大変なことで、単純に考えれば1週間の釣りで、以前と比べて2日分以上もフォルスキャストせずに済んだことになる。

ピックアップ

 また、このロッドのパワーはさまざまな状況でピックアップを容易にする。最近ロールアップをすることは少なく、スペイアップもしくはロッドを回転させるように振って直接ピックアップすることが多いが、同じことを1712Dで行ったときに比べ、よりショートストロークで行うことができる。従って体力の消耗も少なく、トラブルも少なく、釣りに集中できることになる。



一投目でフライに食いついたシートラウト。

ターンオーバー

 1712DHは少ないフォルスキャストで安定したループを作れる。そしてターン性能の良いDSTフライラインとのコンビにより、フライが水面を叩く回数が以前よりずっと増えた。今年ガウラで釣った魚は、ローウォーターのせいもあるが、すべて対岸寄りでフッキングしている。印象的だったのはクルモプールで釣ったシートラウトだ。それは対岸に向かって投げた最初のキャストで、着水とほぼ同時に#6のダブルフックを飲み込んだ。着水の瞬間からフライが生きていたのだろう。

アキュラシー

 1712DHで遠投しようとするなら、当然フライラインはキャスターの能力の範囲内で長い方が良い。しかしポイントまでの距離が短ければ、このロッドにあえて短いライン(例えばSS1612D用)を付けることも大変有効である。ピックアップ性能の高さが一段と冴え渡り、安定したループを生かしてスロースピードのシューティングが行える。キャスターの体力消耗を少なくし、その上アキュラシー性が高まるので、サーモンに遭遇するまで、長時間に亘ってロッドを振り続けなければならない状況ではなによりだ。



今年ブリッジプールでランディングしたサーモン。

ファイティング

 たとえローウォーターでも、アングラーはいつもモンスターを夢見ている。だから1712DHをできるだけ使っていたい。と言うのは、まだビッグフィッシュを釣っていないので偉そうな事はいえないが、1712DHのファイティング潜在能力はすごいものがあると想像できるからだ。

 シューティングだけが楽なだけのファーストアクションのロッドは、ティップからバットがスムーズに曲がらず、傍で見ているとロッドの曲がりに角ができている。これはかなり有名なロッドでも見受けられる。そういったロッドはファイティングの限界が低く、また魚の引きが弱くなると一気に復元しようとするのでフックが外れやすい。

 しかし1712DHにはそんなことがない。格好悪い話だが、春に九頭竜川のハタヤプールの開きで、そこに積んであった土嚢を引っ掛けてしまった。そのときの1712DHの曲がり方は大変スムーズで、きれいな放物線を描き、流芯からそれを引き離してもゆっくりと復元し、なんとランディングしてしまった。この時に長良川に伝わる郡上竿というものを思い出した。それは太い竿で手にずっしりと重いが、ファイティングでは魚の引きに対応した分だけ曲がってくれる。引かれればその分だけ曲がり、引きが弱まればその分だけ復元する。そして限界が高い。1712DHもそのパワーの割には軽いということを除けば同じである。

 今年のブリッジプールではサーモンが深く下に潜ろうとしているとき、ロッドを立ててラインを張っているだけでプレッシャーをかけることができ、見事にその抵抗を吸収し、その結果サーモンは短時間で勝手に疲れてくれた。そして引きが弱くなってもロッドが跳ねるような感覚は皆無で、滑らかにその変化を伝えてくれた。なにぶん10kgに満たない魚だったので、限界には程遠い状況ではあったが、もっと大きな魚が来てもどうにかなるのではないかという自信がついた。

 いつか1712DHの限界近くでファイトするようなモンスターを釣ってみたいものだ。シャンパンの泡のような夢かもしれないが。