可能性は、RIRが誕生してからの時間を考える限り少ないと思われる。
もしそうだとすると、残されたパターンリストの記述は間違いだった可能性がある。
それを推測させる事柄が二つ有る。
一つは、マテリアルとして見たRIRの特徴である。
RIR は大型の鶏で、色は通常ダークブラウン。
このハックルを使用したことのあるタイヤーなら、直ぐにわかることだが、ネックに生えているハックルの密度が薄く、小型が少ない。また、ファイバーが長いうえに芯が硬くてもろく、折れやすい。
つまり、テール材として使用する以外、小さなドライフライを巻くには全く適していない。
ところが、マテリアルとして明らかに不向きであるにも拘わらず、RIRはLunnの作品に頻繁に登場する。
Lunn’s Particularの場合、フックサイズは#15、 Houghton Ruby は#16、その他、 Sherry spinnerやWinged capererはサイズ#14のハックルに用いられている。
RIRの父親はイギリスに居たBlack breasted red Malay cock だったことから、このBlack breasted red Malay cock、もしくはそれに似た鶏をRIRとして扱った可能性もあるが、RIRの羽根の硬さはred Malay由来の性質であることから、それも考えにくい。
つまり、RIRではなく、他の鶏を使用した可能性が高い。
もう一つは、イギリス国内で販売されていたRIR表示のネックだ。
私が試行錯誤のうえ、初めてLunn’s Particular を巻いたのは1973年であった。完成後も、その巻き方が正しいのかどうか不安だったが、1974年、渡英してJohn Veniard に持参したフライを見てもらい、それが正確な巻き方だと判って安心した。
その時持参したフライを巻くのに使用したネックは、イギリスから輸入したもので、イギリス国内では1980年頃までRIRネックとして販売されていた。
しかし、勿論そのネックは鶏の改良品種であるRIRではなかった。つまり、RIRではないネックをRIRと表示し、それでLunn’s Particularを巻いていたことになる。
1970年代後半、RIR 表示のネックをイギリスから調達するのが難しくなってきたため、私はRIR誕生の地であるアメリカから直接輸入した。その数は数年で500羽を超えた。
ところが期待に反し、テール材を取ることができたネックが一割ほど有っただけで、ボディ用のストークは硬くてもろく、ハックルを巻けるものは皆無であった。
このように本物のロード・アイランド・レッドはマテリアルとしては使い物にならなかったが、ハックルやハックル・ストークの色は、確かにランズ・パティキュラを巻くのにふさわしい色合いであった。
そもそも、Lunnの巻いたフライのパターンリストは彼自身が残したものでない可能性が高いので、Lunnのフライをみて、そのパターンリストを書き著した人が、当時、アメリカで画期的な品種の鶏が誕生したニュースに影響され、また、ストークの色が同じという理由から、Lunnの使用したレッドハックルとハックル・ストークをRIRと記したのではないか。そんな想像もしたくなる。
RIR と表示されるマテリアルとは
インドは鶏の最大の原産地であり、周辺の国々を合わせると、原種の他にかなりの数の亜種が生息している。レッドカラーは種を問わず最多のカラーであるが、その中でストークがボディの製作に適している品種をフライタイイングの世界ではRIRと表示していた。その品種の本当の名前は判らないが、アメリカで100年ほど前に誕生した新しい品種であるRIR とは全く別の鶏である。