'01 晩秋にブラックフェアリーで レインボートラウト 58.5cm, 2.9kg!
天野 治 (あまのおさむ) 埼玉県在住 Osamu Amano in Saitama 【Japan】
フライフィッシング歴23年 / サクラマス歴1年
MY TROPHY | MY RECORD |
魚種 Species |
レインボートラウト Rainbow Trout |
体長 Length |
58.5cm |
体重 Weight |
2.9kg |
フライ Fly & Hook Size |
Black Fairy tied on the SL3 Long Dee #4
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ロッド Rod |
KS SF SHANON |
リール Reel |
KS SU 78 Green |
釣った日 Date of Catch |
2001/09/21 |
釣った場所 Place of Catch |
桂川 |
IMPRESSIONS
毎年9月中旬を過ぎると寂寥感と焦燥感に駆られ、禁漁日までの数少ない休日を最優先で釣りに振り当てる。9月はあと1回釣りに行ければ良しと思っていた矢先、仕事がキャンセルになり、3連休が転がり込んできた。急ぎ宿を確保し、釣りの準備に取り掛かる。シーズン終盤はライズも少なく、シビアーな釣りになるケースが多い。あまり手の込んだ準備は止めて、大きなフライを10本とセーター、それに読みかけの本をザックに放り込み家を出た。
目的の駅で降りると、この季節にしては風が異常に冷たい。これでは富士山頂は雪かな。そんなことを考えながら歩いている時、雲の切れ間から見えた頂きは真っ白だった。初冠雪だ。過去の経験から、今夕は気温が低下し、魚の気配の乏しい、モヤの立ち上るうすら寂しい流れで釣りをすることになるだろう。
いつものように流れの合流点に戻ってゆっくりとロッドを繋ぎ、#4のディースタイルのフックに巻いたブラックフェアリーを結んだ。何処にフライを落とせば良いかはもう体が覚えている。
ライズは皆無だ。しかし意外にも水面下では鱒は活発にフライを追った。フックサイズが大きいのでなかなかフッキングしない。それでもいつも良型がでる川が大きく曲がるポイントに到着する頃には30センチ前後の鱒を5匹手にしていた。その後暫く釣り下ったが、急に当たりが無くなった。正に魚の気配が消え失せたという表現がぴったりだ。
でもこの日はこのまま帰る気持ちにはなれなかった。決して今日の釣果に不満がある訳ではないが、もう半年間来れないことを考えると、今日川辺で過ごした時間はあまりにも短すぎる。もう少しシーズンを思い起こしながら川辺に居たい。よし、あと2時間だけロッドを振ってみよう。
こんな時は最高に楽しかったシテュエイションを思い起こすのがいい。5月下旬、ウエットフライのベストタイム。天候は霧雨、冷え込みがきつく、吐く息が白くなるくらい寒い。時折ライズの音が遠くで聞こえ、まだ鱒が上ずっている。昨年、60オーバーのブラウンを釣った日と同じような状況をイメージし、自らに楽しい暗示をかけた。これで舞台は整った。後は主役の登場を待つだけだ。そんな雰囲気に浸りこんで上流部きっての川が大きく蛇行するポイントの少し下流に立った。
ここは流芯が対岸を通っている。手前の岸側は昼間見るとばかばかしいくらい浅い。ここを攻めるキーポイントはスイングの後半からロッドワークでフライに生命を吹き込むことだ。ラインの長さや投げる角度は体が全て記憶している。第1投目、核心部と思しきポイントの2m程手前に慎重にキャストした。フライを1m程ドリフトし、更にロッドを送り込んで、その限界でラインを張る。その時だった。「ドスン」ロッド全体を抑え込むような重厚な衝撃が襲った。直ぐにロッドがグイグイ絞り込まれていく。予想もしなかった主役が本当に登場した。
フックも大きく、スイング前半のストライクなのでフッキングは絶対に大丈夫だ。あっという間に僅か7m程のラインが倍近く引き出された。ここは両岸とも障害物だらけで、そこに突っ込まれたら万事休すだ。ロッドを流芯に思い切り突き出して、反発力を最大限に活かし、プレッシャーをかけながら懸命に走りを最小限に抑える。本来なら思い切り走ってもらいたいが、それを許したら間違いなくブッシュへ一直線だ。鱒の動きを慎重に見ながらロッドを思い切り曲げ、その曲がりの限界でリールを抑えた手を緩めながらラインを小出しにする。出て行くラインに対して思うように回収できない。恐ろしく強烈なパワーだ。
既にブッシュに潜られているかもしれない。これ以上下流に行かれては取り逃がす危険性が大きい。フッキングしてから約7分が経過した。1Xのティペットを使用していたが、さすがに心配になってきた。ここで相手は突然大きなジャンプをやらかした。着水時のスプラッシュの激しさは正に丸太棒を投げ込んだという表現がぴったりだ。「でかい」じわじわと緊張感が高まる。よく釣れる50cm前後の鱒でないことを確信した。上手くプレッシャーを掛けられたのか、縦横無尽に暴れまくる割には、障害物には潜られていない。正攻法で戦いを挑んでくる相手に気持ちが落ち着いた。このまま上手くいってほしい。
いよいよ鱒が目前にその姿を露にした。虹鱒だ。月明かりにその黒い背中が光って見える。まるで鯉のような体の厚みだ。太った魚が多い川だが、これ程厚みがある鱒は初めてだと思う。早く釣り上げてこの手に抱いてみたい。しかし、いつものことだが、ここからが大仕事だ。綱引きを10回以上も繰り返し、ようやくおとなしくなってきた。体側を見せてもまだ抵抗を止めない。恐らく60cm前後の虹鱒だろう。
最後にもう一度自分のスタンディングポジションを確認した。手前の砂地でランディングしよう。右手で大きなネットを準備した。鱒が一瞬抵抗を止め、力を抜いて水に浮いたように見えた。この時を逃がさなかった。そのままロッドで強引に引き寄せ、ネットに引き込んだ。大成功だ。重い。ロッドを草むらに放り投げ、ネットに内蔵されているスケールで目方を量る。体重は2.9kg。砂地で跳ね回る魚体を両手で抑え、体長を計測した。58.5cmだ。残念ながら何回計測しても60には届いていなかった。両手でしっかり抑えないと持てない程太い強大な筋肉質の虹鱒だった。
暫く放心状態でその場に座り込んでいた。ランディングするまで約15分を要した。こんなことが起きて良いのだろうか。最盛期でもなかなか出会えない素晴らしい相手にめぐり逢えた。この鱒はあまりにも強烈なファイトの為か、エラからの出血が止まらず、数分後に絶命してしまったが、素晴らしいファイトに心から敬意を表したい。秋のシーズン最後に素晴らしい思い出をくれたこの虹鱒は剥製にして生涯そばに置いておくことに決めた。
随分と長い期間釣りをしてきたが、釣れない時によく楽しい思い出のある釣り場を心に描き、気持ちをリフレッシュして釣ることがあった。しかし、その作戦はあまり功を奏したことがなかった。当たり前である。事の本質を見抜かないで、気持ちだけ切り替えても何も起きるはずがない。帰り支度をしながら、ふと流れに目を向けると春に生まれた10cmにも満たない小ヤマメが何かにライズを繰り返している。足元に横たわる筋肉質の虹鱒を再び見やったとき、釣れた理由をはっきりと確信した。晩秋の桂川で素晴らしいファイターに出会えた自分自身の幸運に感謝したい。