2年前、パワーウェットを始めるかどうかを沢田さんに相談したことがあった。
パワーウェットの対象となる魚を釣りに行こうとなると、時間も資金もかかるので躊躇していたのだ。
沢田さんからは、パワーウェットを始めると、急速にフライフィッシングの技術が進歩するというお話をいただき、それならと思い決断。
幸運にも、その年に2匹のサクラマスを釣り上げることができた。
この勢いにのってという訳ではないが、次はスチールヘッドとばかりに、同年秋にパワーウェットのタックルを持ってカナダにチャレンジ。
少しはなんとかなるかなと思って臨んだカナダであったが、ワールドクラスの釣り場にキャスティングをしに来ているだけで、
肝心の“釣り”がなっていない。
自分のやりたいこと(やっているはずのこと)と自分ができることのギャップを実感し、まだまだだなと思いながら帰国。
翌年のカナダをターゲットにしてキャスティング、タイイング、パワーウェットをブラッシュアップすることにした。
翌春のサクラマスではラインの落とし方、フライの泳がし方に注意することで、1年前よりは少しはまともに“釣り”ができるようになった気がした。
> そして迎えたカナダのリベンジ。
サクラマスを狙いに行く河と比べてもそのスケールは果てしがないほど大きく、パワーウェットのタックルを持ってしてもほんの一部にしかフライを流せない。
こんな大河に一体どれくらいの数のスチールヘッドが遡上するというのだろうか?
そこに居着いている魚を狙うのならともかく、目の前のプールに居るのか居ないのかわからないような、通りすがりの魚を釣るとなると、
こんな大河でスチールヘッドと巡り合うことなんて、奇跡的なことのように思えてきた。
しかし出発直前にカナダ在住の達人から貴重なアドバイスを頂戴し、どんなに広大なポイントであっても、とにかく丁寧にフライを泳がす事に集中するようにした。
>
初日は夜明けから日没まで12時間以上もキャスティングし続けたが、コンタクトは無。
2日目も夜明けからキャスティングしているがカスリもせず、寝不足と広大なフィールドに歩き疲れて、夕方早々にホテルに帰りたかったが、
ここでギブアップしたら何のためにこの1年間練習してきたのかがわらないと思い直し、日没30分前に急いでその日の最終ポイントに向かった。
> 雄大なカナダの大自然の中、誰もいない河でシューティング・ロッドを振るのは格別で、
改めてパワーウェットを始めてよかったと思いながら、プールを釣り下っていった。
真っ暗になると帰りの山道でクマに合うことが怖いので、あと数投と思った時、わずかに見えていたDSTラインとフラットビームとの継ぎ目が止まったような気がした。
んっ?と思って軽く持ち上げたロッドに確かに魚の感触を感じた。
これまで何度か失敗してきた不味いタイミングだが、そのまま強引にラインを張ってフッキングしてしまった。
最初はあまり抵抗せずに寄ってくるものだからスチールヘッドではないのかなと思ったが、次の瞬間ものすごい速さでサーモン2が逆転した。
当たりがあった時にリールが逆転してラインが出るよう弱めにドラグを設定していたので、フラットビームがバックラッシュした時は、身体が凍りついたが、何とか事なきを得た。
2度、3度と走った後、次第に魚との距離が縮まり、スチールヘッドだと確信した後は、時間をかけて慎重に浅瀬に引き揚げた。
すでに辺りはだいぶ暗くなっているので、感慨に浸っている時間は無い。
大急ぎで写真を撮ってその場から逃げるようにレンタカーを停めてある所まで戻った。
クルマのドアを閉めた後、息を切らしながらもやっとスチールヘッドを釣ったということを実感して、やった~!と叫んでしまった。
始めて釣ったスチールヘッドは決してトロフィーサイズというわけではなかったが、
この1匹のおかげでパワーウェットの世界に大きな一歩を踏み入れられたような気がする。
この2年間、パワーウェットを始めたおかげで、サクラマスやスチールヘッドという素晴らしい魚をターゲットとすることができ、それらを目標に努力してきたことで、これまでの自分では到底考えられなかったことができるようになってきたように思える。
成長とは振り返ってみた時に始めてわかるものなのだろうが、今改めて沢田さんの最初のアドバイスの意味が少し理解できたような気がする。