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-- FLY FISHER`S GREAT CONTRIBUTIONS

シーズン回顧録:黄昏の桂川で・・・・

孫悟空(SON-GO-KOO)
フライフィッシング歴24年

枯れた葦と周囲の裸の木々だけが際立って目立つ早春の川辺は、最盛期とまったく違ったこざっぱりとした雰囲気を醸し出している。ウイードベッドも少なく川底はほとんどが丸見えだ。その為か魚の気配が希薄に感じ、本当に釣れるのか、いつも心配になってしまう。しかし魚は湧水と豊富な水棲昆虫により、他の河川とは全く異次元の素晴らしいコンディションを維持している。それが証拠に夕方ともなれば、何処からともなく姿を現し、最盛期の魚のように積極果敢にフライを追う。

シーズン初めの釣りはいつも心がときめく。はやる気持を抑えきれず、まだイブニングライズには十分時間があるのに支度を済ませて川辺に立ってしまう。この時期はなんと言ってもセッジの釣りだ。ライズを繰り返す魚は引き波を立てながら流れをゆっくり横切るフライに何の疑いもなく襲いかかる。私は今年始めに結ぶフライは、昨シーズン終盤に時折活躍したマドラーミノーと決めていた。今年も大活躍しそうな予感がして、オフの間にたくさん巻いておいたのだった。私はゆっくりとリーダーを加工し、#6のマドラーミノーをドロッパーに、リードフライには#8の厚いクイルウイングとハックルを持った、これまたセッジのパターンを結んだ。魚は隠れ家となるバンクのえぐれやウイードベッドの中から、夕方になると上流の浅場に餌を取りに出てくる。そのような隠れ家の数メートル上流でライズを待つ。

やがてどこにこんなにたくさんの魚がいたのかと思う程あちこちでライズが始まる。私はもっとも大きそうな魚に狙いを付け、その魚の数回のライズをやり過ごし、次のライズでフライを波紋の1m程上手に叩き込んだ。ロッドを高く保ち、ラインをほんの少し張ってライズのあった辺りまでフライを送り込みスイングに移行にする。ほんの30cmもフライが流れを横切っただけでバシャという音とともに魚がフライを捉えた。ゆっくりと合わせると「ドスン」という懐かしい感触がグリップに伝わってきた。魚を取り込んでいると視界の片隅で別の魚がライズをする。すばやく魚を外し、すかさずフライを投げる。またもドスンという手応えとともにロッドが大きく曲がる。

初期は30センチ前後の魚が中心であるが、入れ食いのお祭り騒ぎの釣りだ。釣っては放しの繰り返しでフライはボロボロ、両手は魚の粘液だらけになってしまった。すっかり夢中になってしまい、側から見たらまるで子供がはしゃいでいるような光景に違いない。ちょっと気恥ずかしさを覚えながらも水面でバシャという音がすると再び子供に戻ってしまう。解禁直後の釣りは何度経験しても頭の中が真白になってしまうくらい興奮し、本当に楽しい。

ライズの間隔が次第に長くなり、魚の気配が急に失せる。底冷えがし、気が付けば冷たい風が時折頬をかすめる。私は予想をはるかに上回る活躍を見せたマドラーミノーにすっかり有頂天になっていた。この時期はこれ以上フライを投げ続けても無駄なことは過去の経験からわかっている。今までのお祭り騒ぎが嘘のように静まり返った鉛色の川面が鈍く光ってゆったりと流れている。肌寒い風に後押しされるように私はすっかり暗くなった小道を足早に宿に戻った。