6月初旬、ウイードベッドは十分な大きさに成長し、川辺の葦も急速に成長する。魚にとっては最高の隠れが至る所にできる。早春の川とは全く違った雰囲気が漂い、スレた魚が多い反面大型魚がいよいよ動き出す。
マドラーミノーと決別した私は、イブニングライズに効果的と言われるフライを片端から試していた。相変わらずライズはセッジに対して起きるので、もっぱら厚いクイルやピーコックソードのウイングをもったフライ、更にはそれらにボディハクルを持ったもの等を投げ続けた。ただ、いずれのフライも完全に水に馴染ませないで、半分でも浮いたままスイングさせると当たり前だが引き波が起きる。こんな時はマドラーミノーと同現象に遭遇することがしばしばであった。
昨年までは何の躊躇いもなく結んだフライがなんとも頼りなく、どこかぎこちなく見え、数少ないチャンスに対峙した時に絶対の自信が持てなくなっていた。今年は何故こんなに悩むのだろう。ルアーの人が急増した為に魚のスレ方が激しいのか。
ウエットフライは一投目で勝負が決まる場合が多い。私はフライを水面に激突させるウエットフライのプレゼンテーションにより一層気を遣い、また水面の静かな川だけに、スレた魚に対しては引き波の出ないフライを使わねばならないことを考えていた。更にルアーの動きに対抗する為に、柔らかな動きを演出できるフライの必要性を感じていた。
私はパターンブックから幾つかのフライを選び、マテリアルを十分吟味してフライを巻いた。実はこんな展開になるとは予想もしていなかっただけに、求めるフライのストックが全くないのが痛かった。釣りに行く前夜、夜遅く仕事から戻り、朝までフライを巻いて仮眠を取って出掛けて行くのが常となってしまった。
6月中旬の週末、私は昨夜巻いたばかりのフライを結んで、あるプールでイブニングライズを待っていた。ディーフライのスタイルをベースに、水に馴染みやすく、長くて柔らかいマテリアルを吟味したロングシャンクの#6のフライは、引き波を立てずに水面直下をゆっくりとスイングするはずだ。また流れのなかで止めても、僅かなロッドワークにでも敏感に反応する。目の前の流れにフライを投じ、ラインを張った瞬間、これは絶対に釣れると直感した。魚のスレかたがピークに達する時期だが、掛かれば大型魚が多い。マドラーミノーの代替フライを試すには、願ってもない絶好の条件だ。さあ跳ねてみろ。今日は絶対に釣ってやる。
この川では、イブニングライズで魚がウエットフライに良く反応するのは、ライズの後半ではなく、終盤である。以前、ライズする魚を何とか釣りたくて、#12番のフライを多用し、前半から何匹もの魚を釣ったことがあった。しかし、大型魚を狙う場合、前半から跳ねる小型魚は無視して、終盤に出てくる大型魚のライズだけを見極め、狙ってフライを投じた方が良い結果につながることが多い。
じっと待つ私の7m程下流、川の中央付近でついにナイスサイズがライズした。私はもう一度ライズしたら、いつでも投げられるようラインを引き出して待った。しかしライズは続かない。もう完全に大きなフライに反応する時間だと確信した私は、慎重に対岸下流めがけてフライを投げた。いつものように流速よりも幾分ゆっくりとフライを送り、ラインが張った時点でスイングに入る。ロッティップにラインの重さが乗って、スイングの感触が伝わってくる。ロッドの先端から伸びる青白いラインがほのかに見え、頼れるのはロッドに伝わる感触だけだ。ラインが自分の真下に伸びきった時点でゆっくり1mほど手繰ってみる。残念ながら一投目は何も起きなかった。大きなため息が漏れた。私は冷たいお茶を一口含んで、数回深呼吸を繰り返した。
先ほどの魚が居れば絶対にフライを見ている筈だ。もし見ていれば何らかの反応があってもよい。私は魚がプールの開きの浅い場所に移動したと読んで、二投目を投げたい気持ちを抑えて、思い切り下流に移動した。
ライズがないので魚がどこにいるかわからない。これが一番怖い。対岸側に居れば上手くフッキングできるが、手前に来ていると自分の真下でフッキングさせることになる。これはもう運だけの世界だ。こんな時は出来ることを確実にやるしかない。私は慎重にラインを伸ばし対岸下流にフライを投じた。ここは取水口がある為に、スイング中にラインを手繰らなければならない。私はロッドティプにかかるテンションを頼りに、慎重にフライをスイングさせた。きっと長いハックルをユラユラさせながら、生き物らしさを全身にまとい、魚を誘惑しながら泳いでいるはずだ。ちょうどフライが流れの中央付近に達したと思われる時だった。いきなりドカンという衝撃が伝わり、ロッドが物凄い力で引き込まれた。
ラインを張る間もなく、手元のラインがあっという間に引き出され、更にリールをから7m程のラインが一瞬にしてすっ飛んでいった。今日に限って誰もいない川辺に、ひときわ大きくリールの金属音が鳴り響く。魚が止まったのを確認し、ゆっくりとラインを張った。直線的な力強い引きで虹鱒であることを確信した。以前煮え湯を飲まされた嫌な引き方ではなく、安心してラインを張って対峙できる力強いファイトだ。薄暗い水面に白い派手な水柱が上がる。魚は一気に上流に走り、私の目前で急に対岸に走り、再び下流に向かって疾走した。幸い障害物がないので、私は魚の動きを見ながら慌てず時間をかけて距離を詰めた。
いつもは足元に寄せてからが一仕事だが、散々走りまくった鱒は、もう一暴れする余力は残されていないようだ。私はネットを伸ばし魚が浮いた瞬間を逃さず引き込んだ。50センチ前後の綺麗な虹鱒だった。第一ラウンドは大成功だ。
まだ釣りを止めるには早い。私は4月末にマドラーミノーで大型魚を取り逃がしたバンクに向かった。葦が伸びた為、同じポジションには立てないが、魚は水面下で必死に餌を探しているに違いない。私はフライを再度結びなおし、先程と同じ様に対岸下流、バンクの数m上手にフライを叩き込んだ。フライをゆっくり送り込んでラインが張った時点でスイングに入る。スイングの終了間際、、ゆっくりラインを手繰った瞬間だった。いきなりロッドがひったくられた。微妙な位置でのフッキングだ。一瞬悪夢が頭を過ぎったが、魚が一気に下流に走ったので、一か八かラインを張った。ロッドがバットから大きく曲がり、先ほどの魚と同じような直線的な動きが伝わってくる。私は魚の動きを冷静に観察しながらファイトを続けた。
ネットに収まったのは先ほどと同じ位の虹鱒だった。私は続けざまにやってきた2匹の虹鱒に満足し、フライを外して帰り支度を始めた。フライボックスを開けてフライを仕舞おうとした時にマドラーミノーが目に入った。もしかしたら日並が特別良くて釣れたのかもしれない。そう想うともう見込みのない時間であることはわかっていたが、2匹の大きな虹鱒を釣った余裕からか、一度決別したマドラーミノーを結んで再び流れに向かった。
私は15m程下流に移動すると、対岸下流に向けてマドラーミノーを投げた。相変わらず派手な引き波を立てて流れを横切っているのだろうか、ロッドに伝わるテンションからそんなことを想像しながら、ラインをゆっくり手繰り始めたときだった。フライのあると思しき場所で大きな飛沫が上がった。出た。そう思ったのも一瞬で、ロッドには何の感触も伝わってこなかった。フォールスライズだ。私はこれで全てが見えたような気がして、妙にさばさばした気分でリールにラインを巻き取って帰り支度を始めた。
SL6 Black Spey Hooks
DU3 Limerick Spinner Hooks
SL4 Single Bartleet Hooks
XD1 Tube Fly Double Hooks
DD2 Flat Perfect Hooks
DD1 Black Terrestrial Hooks
TD4 Old Limerick Wet Hooks
DU1 Silver May Hooks
MU1 Flat Midge Hooks
LD3 Long Limerick Hooks
TD2 Summer Sproat Hooks
XS1 Tube Single Silver Hooks
TD6 Siver Sedge Hooks
SL5 Black Spey Hooks
DU3 Limerick Spinner Hooks