Classic Salmon Fly Dressingの解説書を読み終えたとき、何かが胃袋を突き上げ、背骨を光矢のごとく走り抜け、右脳で弾けたのだった。すかさず受話器を取り、プッシュする。コール音が数回、受話器が取られた。私の耳に聞こえてきたのは女性の声だった。
私は沢田さんに逢いたかったのです。逢って教えを請いたかったのです。声の主は私に丁重に応対して下さり、私はサーモンフライを巻きたい旨を伝えました。そして流暢なしゃべりに誘われて、私はそのとき「Daybreakが巻きたい」と、「Kelson やBlackerたちではなく、Ken SawadaのDaybreakが巻きたい」と話してしまったのです。私の右脳がそう言わせたのです。マリーアンさんが受話器の向こう側で笑っていらしたのを、私はただボーっと聞いていました。しかし、その笑いは数日の後に私を厳しく、叱咤激励したのでした。
私は初めて沢田さんと逢うにあたって、一つの計画がありました。偶然を装い、私の自慢のフライ達を額に入れ、沢田さんに見ていただき、これから先サーモンフライドレッシングの教えを直接請うことでした。それを了解していただいたときは夢のようでした。
そしてこの日からDaybreakを巻くための特訓が始まりました。来る日も来る日も呪文のように「Daybreak ... Daybreak...」。心の中は「Sunset more sunset」。胃袋は七輪で焙られているがごとくジリジリと。頭の中は張り倒されたようにモウロウと・・。まるで閻魔大王が目の前に鎮座されて、今にも審判を下しそうな、そんな毎日が続きました。タイイングデスクの前で新聞配達の音を聞くのは珍しいことではなく、よくぞここまでと自分に呆れながらも、サーモンフライを巻き続けました。
日めくりカレンダーを忙しくめくるように私の目の前を通り過ぎて行く日々の中に、諦めと、苛立ちと、憂いとをごちゃまぜにしたキャラメルを舐めるような思いをして過ごす自分がありました。
そんな極限の精神状態の中で、巻く技術だけは徐々に進歩していきました。そんな私に沢田さんは、フックを羽根に巻き止めるのが非常に巧い外国のドレッサーの話をしてくれました。私にバランスの大切さを教えてくれたのです。この頃になると、私はイメージと直結した世界を意識し始めました。また、色彩にも注意深くなりました。沢田さんのお話もマクロな部分が多くなり、始めの頃のように少々のことで誉めてくれなくなりました。サビシー・・。
あの流暢な語り口から繰り出てくる言葉は厳格で、気を緩める隙などまったくありませんでした。でもサーモンフライを巻くことが楽しくなってきたのも事実でした。楽しくて楽しくて、日めくりカレンダーが実に軽やかなリズムを奏でて秋風を運んで来てくれました。
2000年10月27日、私は巻き上げた数十本のサーモンフライを持ってプロショップ・サワダを訪れました。毎回のことですが、緊張の一瞬です。沢田さんはその中から5本のフライを選んでくれました。前回まではホッと一息吐いていたのですが、今回は何の高ぶりもなく、流れ下る川の流れのように、自然とプロショップ・サワダを後にすることができました。
Grand Prix Winnerの称号をいただいたのは、その後、12月8日のことでした。イメージと直結した世界を育んで来た結果だと思っています。私は嬉しくて、嬉しくて、内心では喜びの涙で暮れているのですが、右脳はあのカールツァイスのレンズを思わせる深淵のように静まり返っているのでした。でも、非常に嬉しいのです。
私にとってサーモンフライとは、釣り人の魂の投影だと思っています。私をこのようなすばらしい世界に導いてくれた沢田さん、マリーアンさん、また私を終始支えてくれた妻に、深く感謝させていただきます。
SL6 Black Spey Hooks
DU3 Limerick Spinner Hooks
SL4 Single Bartleet Hooks
XD1 Tube Fly Double Hooks
DD2 Flat Perfect Hooks
DD1 Black Terrestrial Hooks
TD4 Old Limerick Wet Hooks
DU1 Silver May Hooks
MU1 Flat Midge Hooks
LD3 Long Limerick Hooks
TD2 Summer Sproat Hooks
XS1 Tube Single Silver Hooks
TD6 Siver Sedge Hooks
SL5 Black Spey Hooks
DU3 Limerick Spinner Hooks