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-- FLY FISHER`S GREAT CONTRIBUTIONS

サクラマス、野性の目覚め 第2章

高屋敷 富士夫(Fujio Takayashiki)

ドラッグをかけて釣る

3年目(1995年)以降、私はある賭けに出た。

渓流でウェットやストリーマーをD&Aで流すとかなりの魚が反応する。サクラマスは1日釣っても当たりすらないことも多い。これを何とかしたいと思い、積極的にドラッグを掛けて反応させようと考えた。バラしも増えるだろうが、当たりが増えればキャッチ出来る数も増えるだろう。後の無い私にとって、初心に返るとかオーソドックスな釣り方よりも、人の何倍も釣る為にはどう発想を転換したら良いかの方に大いに関心があった。

この予想は見事に的中し、当たりの数が激増した。釣りに出掛けて無反応だった日の無い位に。しかし、ほとんどの魚は掛かって数秒で針が外れるか、惜しい所まで来てバレてしまうのだった。4回ヒットして1匹も獲れない時にはさすがに目眩がして起き上がれなかった。バラしが多いのは皆に知られていたから、釣りをしていれば後ろからは野次は飛ぶし、バラした瞬間を見られでもしたらもう、家に帰れば電話の嵐で、慰めというより失笑を買ってるとしか思えなかった。それでもこの釣り方を止められないのは、何と言っても当たりがあるからに他ならなかった。

それなりの工夫もしたのだ。ただ闇雲に流れを真横に横切らせるのではなく、きちんと沈めてスピードの速い弧を描き、魚がどこまでも追いかけてくるようにリトリーブする。フライが流れを捉えるように、ラインはシンクティップのようなラインを自作、フライはハイブリッドチューブのようにヘッドを重くし、リーダーも比較的長めにセットした。流速に応じてロッドの角度や向きを調節したりもした。

フッキング

今度こそ、絶対に釣り上げたい。

今まできちんとフッキングしなかったのは、魚がフライをくわえる間(ま)が足りないからだ。今日は必ず当たりがある。そう確信を持って臨んだので、自ずと今までのスイングスピードをより抑えるような操作を心掛けた。これまでラインを指で引いてアクションを加えていたのを、ロッドを上下にしゃくってアクションを加えるようにした。流速よりフライを遅く流す為に、流れに応じて細かくロッドを操作する。フライが流れ切ってもすぐにはリトリーブせずに、しゃくりながら岸側にロッドを倒す。

以前と比較して水量が落ちていたので、ラインは大きな弧を描き、長めのリーダーを通してフライはゆっくりとその軌跡をなぞっている。そしてフラットビームのテンションが、うまく流れに吸いこまれている事を伝えている。

この時私は6本釣った年を思い出した。あの頃釣った魚も実はスイングスピードを早くしたお陰で、というよりも遠投出来なかったせいでフライは流れを素早く横切り、釣り上げた魚の大半は皮一枚か、ネットに入れるとすぐに外れてしまう事が多かった。そしてそれ以上にバラした魚も多かった。フライが表層をサーっと流れる感覚があった。

今はもっと長い距離を投げられるようになった。そして「流れに吸い込まれる感覚」を手に感じるようになった。するとドラッグを掛けてヒットさせる釣り方は、フッキングさせてはいけない所でフッキングさせていたのだと思うようになった。ドライフライで釣る時は必ず、ここで魚を出すと言うことを決めてからプレゼンテーションする。そのポイントとは、魚が何の疑いもなくゆっくりとフライを捕えることが出来るポイントである。フライの着水点があまりに魚に近いと、出方が素早くて合わせにくくなる。それを大河のパワーウェットに当てはめると、目の前をいきなり通過する何かを急いで追い掛け回して捕えるより、遠くから流れてくる何かを認識してから、突然のターンで向きを変えたフライを逃すまいと捕える方がフッキングの確率が高まるに違いない。

釣れるべくして釣る

遥か彼方の流れに吸い込まれるラインを繋ぐフラットビームを眺めながら、そんなことを思い巡らしていた。そして、瀬の中程の一番良い所でフライが流芯を外れた瞬間に当たりがあった。いつものように一気に下流に下り、頭を振ったがまだ外れない。

「よし、魚を浮かせてフッキングの状態を見てやろう。」

釣り上げることよりも、今までやってきたことを否定した結果がどうなったのかを知りたかった。魚が驚かないようにゆっくりと早くラインを巻き取る。何度か抵抗されたがいよいよ浮かせる所まで来た。サイズなど気にならない。魚が大人しくなった瞬間を見計らって浮かせると、がっちりと口の横にトレブルフックが掛かっている。「ふぅ。」

この時の魚は、釣れるべくして釣れたと実感できた最初の魚だった。同時に今まで釣れるべき魚を、解っていながら取り逃がしていたことも実感できた。