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TRAVELLER

野生のモンゴル

沢田賢一郎

夜中、余りの寒さに目が覚めた。かなり着込んでいたのだが、ゲルと違ってテントは冷える。朝まで未だかなり時間があるし、このままでは眠れない。どうしようかと半ばうつらうつらしながら考えていると、直ぐ近くで獣の叫び声が聞こえた。狼だ。それも一匹や二匹ではなさそうだ。
昼は暑いくらいだが、夜の冷え込みは厳しかった。

そう言えば昨日川岸に降りるとき、犬に似た大きな足跡が沢山あった。このテントからほんの数十メートルの所だ。あれはみな狼の足跡だったのだ。私は暫くテントの中でまんじりともせずにいたが、寒さがいよいよ辛くなってきた。私は意を決し、寝袋を開いてテントの外に出た。外はライトを点ける必要が無いほど明るい月夜だった。

テントから出て以来、狼の鳴き声が聞こえない。私は周囲の藪を見渡した。私からは見えないが、幾つもの目が私を見ているに違いない。私は周囲の藪に向けて一回り光を当てると、30m先に留めてある車に向かった。鞄から手当たり次第に衣類を引き出すと、急いでテントに戻った。ここの狼は人を襲わないと聞いていたが、寒さがこたえたのは気温のせいだけではなかった。