www.kensawada.com
TRAVELLER

野生のモンゴル

沢田賢一郎

見釣り

朝食後、私はガイドと共に川を渡り、対岸に流れ込んでいる支流を釣ることにした。支流は本流の半分ほどの大きさで、石の大きい浅い川だった。

「壊れた橋の下にタイメンが居るがどうしても釣れない」ガイドが地元のハンターからそんな話を聞いていた。
合流点の上の支流にも橋が架かっていた。

我々はその橋に乗り、壊れて隙間だらけになった板の間から川底を見下ろした。朝日が当たっている橋の直ぐ下流側に、数匹のレノックが見えた。皆50cm近くありそうだった。真下は橋桁のせいで日陰になっており、水中の様子は判らなかった。

私はガイドと並んで橋の上から身を乗り出すと、ロッドの先から5mにも満たない長さのラインを出し、それを下の水面に向けた。子供の頃に楽しんだ按摩釣りのようだった。違うのはフライも魚も丸見えと言うことだ。
フライを奪い去ったのはタイメンだった。ガイドにロッドを持って貰い、私は針を外しに下に降りた。

私は川の端にフライを落とすと、ロッドを反対側に向けながら、フライが流れを横切るようにした。スティングレーのロングテールが、長い尻尾を振りながら眼下の水面を泳ぎ出すと、2匹のレノックが同時に浮上しフライの後を追った。

その内の一匹がフライに襲いかかろうとした瞬間、日陰から何かが飛び出し、正にレノックの目の前でフライを奪い去った。その光景にガイドと私は思わず歓声をあげた。

「凄い、凄い」私はそう言いながら橋の下に潜り込もうとして暴れている魚を水面に引き揚げた。その顔が水面に現れたとき、二人同時に「タイメン!!」と叫んでしまった。

タイメンを釣った後、私はフライのテストとばかりに、新しいフライを結んでは眼下の水面に走らせた。大きなレノックが先ずアクアマリン・スクィッドを飲み込み、2匹目のレノックはバスタード・シープで作った20cmのアクアマリンに襲いかかった。