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TRAVELLER

野生のモンゴル

沢田賢一郎

岩盤

100mばかり歩いた所で、川は右に折れていた。その曲がり角の正面に大きな岩盤があった。モンゴルに来てから、川岸が岩盤で覆われている所を初めて見た。なるほどここなら流れが岩盤にぶつかるから、その岸際の川底は掘れて深くなっているに違いない。
川幅は広いが、たやすく渡れるほど浅かった。

何処の川でも普通に見られるコーナーが、ここではとても珍しいことが判った。モンゴルの土壌は石ばかりが目立つ。ところが風化された石はとてももろいから、川は何処までも浸食し、川岸は凹凸のない滑らかな弧を描く。モンゴルの川が、正しく蛇がのたうち回っているかのように蛇行しているのはそのせいで、ポイントを探すには、先ず川岸が岩盤の所を探すのが早道のようだ。

私はそのコーナーの上の瀬に膝まで浸かり、タイプ2のラインを引き出すと、下流の対岸に向けて投げ始めた。ラインの先でマイナス8Xのリーダーに結んだローズマリーのロングテールが泳いでいる。
流れが切り立った岩盤にぶつかり、絶好のポイントを作っていた。

3投目でラインは岩盤に沿って流れを横切り始めた。私のフライは今、浅い瀬の中でなく、岩盤に沿って走る溝の中を泳いでいる筈だ。

良い所に差し掛かったと思うのと同時だった。まともにドカンと言った当たりがやって来た。ロッドを起こすと小気味よい震動が伝わってきた。何だろう。モンゴルで釣る初めての魚だ。

魚は元気よく右や左へ走り回ったが、如何せん私のロッドは17フィートのハードアクションだ。時折リールが逆転するだけであった。手応えからして、タイメンでないことは確かだ。私は暴れている魚を強引に引き寄せ、岸際に誘導した。

美しいスタイルと鮮やかな紋様を持った50cmばかりのトラウトが、ローズマリーのロングテールを口いっぱいに頬張っている。良く知られているレノックではなさそうだ。他にどんな魚が居るのか知らないが、どうもこれは幻の魚と言われているアムールトラウトらしい。私は下流に向かったガイドが帰ってくるまで、その魚を糸に繋いで生かしておくことにした。