野生のモンゴル
沢田賢一郎
ローズマリー
食事中、それまで曇っていた空から薄日が漏れてくると、気温が瞬く間に上昇した。身体の内側からも暖まっているから、それまでの寒さが嘘のようであった。午後、今度は川を渡り、反対側からプールの下流側を釣ることにした。
下流側に渡った時、空はすっかり晴れ渡っていた。この明るさでは無理かと思ったが、私は念のため同じマウスを投げ、水面に泳がせてみた。数回試みたが、どうも釣れそうもない。私はマウスを仕舞うとDSTの新しいライン、タイプ1/2をセットし、前日と同じローズマリーのロングテールを結んで、投げ直した。
プールの下流側は広い開きとなっていた。池のように見えるが、まともに流れている。
ほんの数投で根掛かりしたようにラインが動かなくなった。タイメン独特の当たりだ。サイズが70cm程とはいえ、このプールで計6匹のタイメンが釣れた。粘って釣れるのでなく、全くあっさりと釣れることから想像するに、全く人ズレしていないのだろう。
6匹も釣れたからと言って、それ以上粘っても無駄なようなので、我々は上流へ向かった。300mほど歩いた所に小さなポイントがあった。急な瀬の中程に小さな支流が流れ込んでいて、その合流点に淀みが出来ていた。私は瀬の際に立ち、15mばかりのラインをその淀みの上から流し始めた。
一投目からフライが激しく引ったくられた。40cmを少し越えたレノックだった。姿はヤマメによく似ているけれど、気性が荒い。全長15cmのロングテールを丸飲みにする勢いで襲いかかってくる。
プール上流の瀬を釣る平野氏。
2投目、淀みに差し掛かる辺りで同じような当たりがあった。フッキングして直ぐに瀬の中を走り回ったのは50cm近いアムールトラウトだった。本当に元気な魚だ。
3投目。フライが淀みの中に入ると共に、スウィングしていたラインが止まった。私が左手で持ったラインを引いた瞬間、今度は根掛かりのような当たりがあった。もしやタイメンかと思ったら、案の定、赤い尻尾で水面を叩きながら浮上したのは紛れもなくタイメンだった。3回投げて3種類の魚が釣れるとは。さすがにタイメンは流れの淀んだ所に居た。これまでの結果から見る限り、速い流れは嫌いらしい。