野生のモンゴル
沢田賢一郎
バルジ川
10月3日。オノン川支流のバルジ川へ向かった。山を二つ越え、松林の中を走ること2時間半。バルジ川キャンプ場に着いた。この日は朝から雲一つ無い快晴で、気温が15度近くまで上昇した。空気が澄んで陽差しが強いため、温度以上に暑く感じられた。
天気の回復と共に雪がみるみる消えていく。
バルジ川は我々がフライで釣るのに丁度良い規模と、事前に聞かされていたが、目の当たりにしてみると驚くほど小さな川だった。日光の湯川や忍野と幾らも変わらない。ガイドはこの川で1.4mのタイメンを釣ったと言っていた。大きなタイメンが居るからと言って、何も特殊な川ではないらしい。タイメンは春の産卵期に、小さな沢にも上がると言うことだった。
先ずはキャンプ場の直ぐ前を釣ってみることになった。とても1712を振れる広さでないので、私は1612を取り出し、DST12のタイプ1/2をセットした。天気が良いので、ローズマリーのロングテールを結び、対岸を釣らないよう慎重に投げ始めた。
草原のあちこちにエーデルワイズが花開いていた。
4、5回投げただけで、早々とタイメンがやって来た。70cmはなさそうだ。オノンの魚と比べて緑色が強く、テールも黄色味がかっていたが、違う種類と言うことではないらしい。
昼食を済ましてから、車で下流のポイントに向かった。空には雲一つなく、陽差しは益々強くなっていく。ジャケットを脱ぎ、次にセーターを脱いでも未だ暑い。数日前、我々が雪の中で凍り付いていたなんて、夢ではないかと思ってしまう。もし我々が今日から釣りを始めていたらどうなるだろう。恐らく来年は防寒着を持たずに来てしまうだろう。
川は橋が無くても渡らねば。
二番目のポイントは良さそうだったが、釣れたのはレノックだけだった。3番目のポイントは、本当に忍野で釣っていた頃を想い出すほど、広さも、その佇まいも似ていた。川が緩くカーブしている所に小さな支流が流れ込んでいて、その出合いの下に古い倒木が沈んでいた。
16フィートはその規模に不釣り合いだったが、それ以上短いロッドを私は持ち合わせていなかったので、ランニングラインがロッドの先から出ないまま、対岸すれすれを狙った。狙い初めて直ぐに70cmに満たないタイメンがやって来た。その後はレノックだけだった。
バルジでは大きなプール。シングルハンドでも充分釣りができる。
私はガイドに言われるままに河原を突っ切り、下流に向かった。200m近く歩いたとき、前方に何処かで見たようなプールが現れた。そこは川が直角に曲がり、大きな倒木が何本も沈んでいた。そっくりのプールが日光の湯川にあったのを想い出した。
倒木の間を見透かすと数匹の魚が見えた。レノックらしい形をしていた。更に目を凝らすと、その下流側に一際大きな影を見つけた。形からしてタイメンであろう。長さが1m近くあるように思えた。私は慎重にフライを投げたが、どういう訳か全く反応がない。フライを追うわけでなし、逃げるわけでもない。単に無視しているだけだ。
開始早々、小型のタイメンがやってきた。
私はフライを次々に取替え、最後はポッパーヘッド付きのマウスまで投げたが、魚は全く知らん顔だった。後で聞くところによると、ほんの数日前に餌釣りの人達が入った場所だったそうだ。恐らくその後遺症が残っていたのではないかと思う。
水量が少ないため、少しでも深い所がポイントとなる。
大きな倒木が魚に絶好の隠れ家を提供している。