ダブルフックに巻いたブラックフェアリー
1993年、私は濁った川でサクラマスを釣るのに効果的なフライが欲しくて、ブラックフェアリーを考えついた。色彩は濁りの中でもよく見える黒を基調とし、僅かな水の抵抗によっても動きが良くなるよう、黒のヘロンハックルとピーコックハールを多用したフライである。河川が増水して濁ると、魚は流芯を避け、流れの緩い岸際に移動する。そうした彼らを釣るにはフライを沈めなければならないが、流れの緩さがフライの動きを悪くしてしまう。柔らかいヘロンハックルやピーコックハールを使うと、そうした条件でもフライを魅力的な姿に保つのが、このパターンを思いついた理由だった。
幸いブラックフェアリーはサクラマスの釣りに大成功をもたらしてくれた。私はその後、このフライをアトランティックサーモンに使って見たが、ここでも大きな成果があった。ブラックフェアリーは通常ウォディントンシャンクかチューブにドレッシングする。必然的にサイズが大きくなる。濁り水の中で、それは好都合であった。ノルウェーでサーモンを釣っていると、このフライの出番は圧倒的に夜が多くなった。ノルウェーの河川はちょっとやそっとの雨で増水しても、簡単に濁らないが、暗い夜は濁りと同じような状況になるからだ。但し、6月のノルウェーに夜はないから、専ら7月に使うことが多かった。
7月も半ばを過ぎると水位が落ちてくる。渇水ではないけれど、昼間、魚は次第に小さなフライに関心を抱くようになる。ところがこの数年間、夜だというのにまともなサイズのチューブフライに対し、反応の良くない魚が目に付くようになってきた。小型で、暗いときに効果的なフライが欲しい。2000年のシーズンを前に、私は手始めにブラックフェアリーのダブルフック・バージョンを幾つか用意し、その時を待った。
7月の半ば、水位はほぼ平水、水温は夕方で12度。本来なら大型のフライで夜を迎えるに相応しい条件だったが、昼間、マリアンが4番のダブルフックに巻いたグリーンワスプを使って10kgのサーモンを釣っていたため、私も躊躇わずに同じSD1の4番に巻いたブラックフェアリーを結んで日が暮れるのを待った。
夜10時頃、ようやく太陽が山の陰に姿を隠し、辺りに夜の気配が満ちてきた。と言っても、日本ならそろそろイブニングライズが始まりそうな明るさである。フライを結ぶのに何の明かりも要らない。私はリバー・ガウラの広いプールの頭からそのフライを流し始めた。夜の11時を過ぎた頃、最初の当たりがやって来た。フライが小さくても、ダブルフックのフッキングに不安はない。激しいファイトの末に足下に近づいて来たのは11kgのサーモン。12時からブリッジプールに移ると、そこでも10kgのサーモンが直ぐにやって来た。
ダブルフックに巻いたブラックフェアリーの初日は大成功であった。その後も同じように数匹のサーモンを釣り上げることができ、私のフライボックスの中で、夜のスモールフライとしての地位を不動のものとした。